中央値の取扱
CostBox-DR Seriesの実装仕様に基づく、定義・算出範囲・画面表示・評価への使い方・注意点までの専門的な解説です。
中央値(median)の取扱い ― CostBox-DR Series
1) 何を"中央値"としているか(定義)
本ツールの「年間散布(全点|中央値付)」では、
その年(暦年 or 会計年度)に属する全30分スロット
の
価格系列 X={価格[円/kWh]} と 電力量系列 Y={電力量[kWh]}
から、それぞれ
単純中央値
を算出します。 → 年間散布図には
縦の破線=価格の中央値、横の破線=電力量の中央値
を描画します。
中央値は定義上「
ソートしたときの真ん中
」で、偶数個なら中央2点の平均をとります(実装の median() 関数)。
注:年の集合は、画面の「暦年/会計年度」設定で切替えられ、内部では年別に (価格,電力量) の点群へ集計してから中央値を計算します。
2) どのデータが中央値の対象か(算出範囲)
対象データ
対象は"有効な30分スロットのみ"
です。 電力量>0 かつ 価格>0 の組合せだけを年間の点群へ取り込み(欠測やゼロ・非数は除外)、その後で中央値や回帰を計算します。
出力内容
年間散布を描く際、
相関 r・回帰式
とともに、
年間価格の中央値/電力量の中央値の数値
も凡例テキストに出力しています。
3) 画面表示と読み取り方
年間散布図の下に「
破線=年間の中央値(縦:価格の中央値、横:電力量の中央値)
」という注記を明示しています。 → クロスヘアで平年(年内)"標準状態"を示し、
全体傾向の基準線
として機能します。
四象限の解釈(横軸=価格/縦軸=電力量)
右上(高価格×高電力)
要改善
(下げDRの観点で望ましくない)
右下(高価格×低電力)
適正
(下げDRの観点で望ましい)
左上(低価格×高電力)
適正
(上げDRの観点で望ましい)
左下(低価格×低電力)
中立(運用文脈で評価)
視覚的には「右下がり(a<0)」の回帰直線が、右下・左上の点を多く通るため、
中央値クロスヘアと回帰線の向き
を併読すると、DRの方向性と"年の標準状態"が一目で確認できます。
4) 目的と効果(統計的意義)
目的
平均(mean)では外れ値(例:200円スパイク、0.01円)に引きずられやすいのに対し、
中央値は外れ値に頑健
で、 年の"標準的な価格帯・負荷帯"を
代表値
として安定に示せます(年比較・施設間比較に適する)。
効果
年をまたぐ比較
で中央値の上下動を追うと、
価格体系や負荷水準の構造変化
(契約・運用変更の影響)を外れ値に左右されず把握。
DRの実務判定
において、まず中央値で全体像を掴み、次に「高価格帯のみ」「0.01円のみ」など
条件付き評価
へスムーズに移行できる(下記5))。
説明責任
:中央値クロスヘアを図中に重ねることで、経営層にも"どこが標準で、どこが逸脱なのか"を直観的に提示可能。
5) DR評価での使い分け(中央値はゲート、最終判定は条件付き)
中央値は
"年全体の標準"
を見る
ゲート指標
。
最終判定は価格帯で条件付け
ます:
下げDR
高価格帯(例:≥50円/kWh)に限定して回帰 or M&V。
上げDR
0.01円/kWh
に限定して負荷増を確認。 本ツールは
「50円以上/0.01円」発生日数
を年別に自動集計しており、
条件付き評価の母数
として活用できます。
つまり、
中央値は"全体の座標軸合わせ"
、
a の符号やイベントM&Vが"局面(高価格/0.01)での有効性判定"
の役割です。
6) 実装注記(再現性)
01
描画処理
年間散布の描画では、
回帰直線、相関 r、そして 価格・電力量の中央値
を算出・表示します。 破線の描画は median(X), median(Y) を使い、
縦横の破線
として重畳しています(drawAnnualScatterSVG() 内)。
02
中央値計算
median() は
単純中央値
(昇順ソート後、奇数は中央、偶数は中央2点の平均)で実装。
03
年別処理
年別の点群形成(暦年/会計年度ラベル付け)→ 年ごとに散布とクロスヘアを描画する流れです。
7) 追加の実務Tips(高度化オプション)
条件付き中央値
価格≥50円のみ、0.01円のみ、8–16時のみ で
部分集合の中央値
を併記すると、局面別の"標準"が明確になります(下げDR/上げDRの迅速評価に有効)。
四分位範囲(IQR)
中央値±IQR/2 の帯(または Q1/Q3 の破線)を重ねると、年内のばらつき・集中度を頑健に表現できます。
年比較ダッシュボード
「価格・電力量の中央値」「a の符号・大きさ」「高価格・0.01 の日数」を
縦並びカード
で年比較すると、経営レポートでの伝達力が大幅に向上します。
データ品質の担保
ゼロ・欠測を除外してから集計する現行フローのまま(rebuildMergedIndex)で OK。日単位の統計は
n≧20
などの最小点数ルールを維持するのが安全です。
8) よくある誤解
誤解1:中央値改善=DR効果
中央値が改善=DRが効いた
ではありません。中央値は年全体の位置合わせ。
局面別(高価格/0.01)での応答の有無
は、条件付き回帰やイベントM&Vで確認してください。
誤解2:0.01円は外れ値
0.01円は外れ値?
→ いいえ。
市場設計に基づく制度値
で、
上げDRの評価対象イベント
です(除外しない)。
まとめ
"中央値は全体像、判定は局面"
CostBox-DR Series|作成日: 2025年9月23日